巨男の話(フリー台本・劇伴/1人用)

青空文庫に掲載されている新美南吉の童話『巨男の話』に劇伴をつけて朗読できるようにしました。
この劇伴は2021年11月28日「東京朗読リレー<9>阿久澤菜々」で発表された作品です。

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[使い方]

このページの『巨男の話』を朗読しながら、【音源データ】があるところに来たときに再生ボタンを押すと、自然に劇伴入りの朗読ができるようになっています。
曲出しのタイミングに指示がありますが、目安と考えてください。

この劇伴は飯干大嵩さんが作曲しました。フリー音源として使用できます。台本下部に利用規約がございますので、詳しい利用方法を確認してご使用ください。

また、ページ末尾に【音源データ】のダウンロードボタンを設置しています。事前にダウンロードしてポン出しのアプリに入れるなど使い方は自由です。

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『巨男の話』新美南吉

([(始)おはなしのこぶねFO]を再生)

(曲が終わったら朗読を始める)

巨男(おおおとこ)とお母さんの住んでいたところはここからたいへん遠くのある森の中でした。
巨男(おおおとこ)のお母さんはおそろしい魔女(まじょ)でした。ほら(わし)のような高い鼻や、(へび)のような(するど)()を持ったあのおそろしい魔女(まじょ)でした。

 それはあるお月夜のことでしたよ。
魔女(まじょ)巨男(おおおとこ)がねむりについたころ、だれか家の外から戸をたたきました。巨男(おおおとこ)が起きていって戸をあけてみると、ふたりの女が、ひとりの少女をつれて立っていたのです。
「この方は、この国の王女様です。私たちは侍女(じじょ)なんです。今日(きょう)、森へ遊びにお姫様(ひめさま)をおつれ(もう)しましたところ、道にまよってとうとうここへきてしまいました。どうか、今晩(こんばん)だけ宿(やど)をかしてください。」とひとりの女がいいました。
 すると、(おく)から、
「どうぞ、むさいところですが、ゆっくり休んでください。」と魔女(まじょ)がやさしい声でいいました。そこで三人は、中へはいって休みました。

(1~2秒間を置いて[M1巨男が目を覚ましてみると]を再生する。曲をバックに朗読を続ける)


 よく朝、巨男(おおおとこ)()をさましてみると、ふたりの女は、黒い鳥に、お(ひめ)さまは白鳥にかわっていました。それは、魔女(まじょ)が、魔法(まほう)でそうしたのです。
魔女(まじょ)は、巨男(おおおとこ)のとめるのもかまわず、三()の鳥を、(まど)から投げ出してやりました。三羽の鳥は飛んでいきました。けれど、白鳥は、夕方になると悲しげに鳴いて魔女(まじょ)の家に帰ってきました。巨男(おおおとこ)不憫(ふびん)に思って、こっそりと白鳥を()ってやることにしました。昼間は野原へ放ってやって、夜は自分のベッドの中でねさせました。

巨男(おおおとこ)が、大きくなるにつれて魔女(まじょ)は、だんだん年をとって、ついに動けなくなりました。それで、毎日ベッドの上に横たわって、息子(むすこ)巨男(おおおとこ)魔法(まほう)を教えました。けれど、その魔法(まほう)は、みな、人間を種々の鳥獣(ちょうじゅう)にかえるものでした。
 そのうちに、魔女(まじょ)はますます弱って、もう死にそうになりました。このときに、魔法(まほう)をとく(ほう)を聞いておかねば、あの白鳥は、いつまでたっても、お姫様(ひめさま)にかえれないと思ったものですから、巨男(おおおとこ)は、魔女の(まくら)もとによって、
「いままで、お母さんは人間を種々の鳥獣(ちょうじゅう)にかえる法を教えてくださいましたが、まだ、魔法(まほう)をとくことを教えてくれません。どうか教えてください。」とたのみました。
「では、教えましょう。」と、魔女(まじょ)はいいましたが、もう息もきれぎれで、声は()のようです。
「お母さん、はっきりいってください!」
巨男(おおおとこ)は、魔女(まじょ)の口もとへ耳をもっていきました。
「その鳥獣(ちょうじゅう)が、(なみだ)を流せば、もとの姿(すがた)にかえるよ……」これだけいうと、魔女(まじょ)は、頭をたれて死んでしまいましたよ。
巨男(おおおとこ)は、死んだ魔女(まじょ)を白い(かん)におさめて、椰子(やし)の木の根もとにうめました。そして、すぐ白鳥をつれて森の家を出ました。

(1秒間を置いて[M2都へ]を再生。曲をバックに朗読を続ける)


巨男(おおおとこ)は、(みやこ)へのぼろうと思いました。途中(とちゅう)でどうかして、白鳥に(なみだ)を流させようとしました。頭をたたいたり、お(しり)をつねったりしたのです。けれど白鳥は、けっして一(てき)さえ(なみだ)を出しませんでした。ただ、悲しそうな声をあげたきりでした。おしまいには、かわいそうになって、巨男(おおおとこ)はいつのまにか白鳥に(ほお)ずりをしていました。そして巨男(おおおとこ)()(なみだ)がありました。
巨男(おおおとこ)は、夜となく昼となく歩き通して、家を出てから七日目に、めざす(みやこ)に着きました。けれど、都の人びとは、巨男(おおおとこ)がおそろしい魔女(まじょ)息子(むすこ)だということを知っていましたので、とおまわしに巨男(おおおとこ)(ころ)そうと考えました。そこでひとりの男が総代(そうだい)となって、王様の住んでいられる宮殿(きゅうでん)へまいりました。そして、王様にこう(もう)し上げたんです。

(間を開けず[M3宮殿]を再生。曲をバックに朗読を続ける)


「王様の宮殿(きゅうでん)は、美しいけれど、大理石の建物(たてもの)がないのは、玉にきずだとある旅人(たびびと)(もう)していました。大理石の(とう)でもたてられてはいかがですか?」
「なるほど、それはよかろう、しかし、大理石というのは、いったいどこにあるのか?」
「ここから、ずーっと南の方へ、山を一つと沙漠(さばく)を一つこえていくと一つの部落に着きます。そこに、大理石はいくらでもあるそうです。」
「そうか、けれどだれがとりにいくのか?」
「それは、いま(みやこ)にいる巨男(おおおとこ)がよいでしょう。彼はたけが椰子(やし)の木ほどで、一足で小さな(おか)をこえてしまいます。」
「では、その男をよべ。」

巨男(おおおとこ)宮殿(きゅうでん)につれられていきました。そして王様から、大理石をとりにいくように命ぜられました。にげるといけないからというので、巨男(おおおとこ)の足には鉄の(くさり)がむすばれました。
「ではいってきます。」と巨男(おおおとこ)はいって、やはり白鳥をつれ、南の方へ旅立ちました。巨男(おおおとこ)の進むにつれて、宮殿(きゅうでん)にたまっていた(くさり)が少なくなりました。ちょうど十九日目に、その(くさり)のたまりはなくなって、はしが太い柱にむすばれてある(くさり)は、ピンとはりました。
 そのときには、巨男(おおおとこ)も種々難儀(なんぎ)をして、大理石の部落に着いていました。部落の人びとは、たいへん親切でしたので、大理石をいくらでもくれました。巨男(おおおとこ)は大きな大理石を三つもらって、それを背負(せお)い、白鳥をその上にとまらして帰途(きと)につきました。
(みやこ)の方では、はっていた(くさり)がゆるんできたので、人びとはそれをたぐりました。帰りには、重い石をもっていたので、巨男(おおおとこ)は三十日かかってやっと都に到着(とうちゃく)しました。

(1秒間を置いて[M4苦しい長い旅]を再生。曲をバックに朗読を続ける)


 苦しい長い旅のために、巨男(おおおとこ)はやつれはてて枯木(かれき)のようになりました。しかしそれでもゆるされなかったんです。すぐその日から、宮庭(きゅうてい)(いずみ)のほとりに、大理石で(とう)をたてることをおおせつかりました。けれど、心の美しい巨男(おおおとこ)は、けっしてなげいたり、悲しんだりしなかったのですよ。命ぜられた通り、毎日毎夜、つちとのみを持って、大理石を切り、それをだんだんつみかさねていきました。巨男(おおおとこ)は、仕事をしているときでもあの白鳥を()にとまらしていました。白鳥もおとなしくとまっていました。巨男(おおおとこ)は、つちをふりながらちょうど人間にいうように白鳥にいいました。
「お前は、いったいどうしたら(なみだ)を流すのか? お前はいつ(なみだ)を流すのか? お前は(なみだ)を流さなくては、いつまでたっても、お(ひめ)さまにはなれないのだよ、私はお前がかわいそうだ。だから早く美しいもとのお姫様(ひめさま)にかえってくれ。」
 そんなときには、白鳥は首をたれて巨男(おおおとこ)の話を聞いていましたが、(なみだ)を流したことはありませんでした。
巨男(おおおとこ)の仕事は、どんどん進んでいきました。夜ふけでも、つみ上げられた(とう)の上から、つちの音が(みやこ)の空にひびきました。都の人びとは、ねる前に、きっと(まど)をあけて巨男(おおおとこ)の働いている(とう)の上をみました。そこには、星と同じような()の光が、またたいていたんです。

(1秒間を置いて[M5三月もたつと]を再生。曲をバックに朗読を続ける)


 三月もたつと、巨男(おおおとこ)がとってきた大理石はつきてしまいました。(とう)の高さは宮殿(きゅうでん)のどの建物(たてもの)よりも高くなりました。それでも、王様は、それでよいとはおっしゃいませんでした。そこで、巨男(おおおとこ)はふたたび南方へ旅立ちました。長い(くさり)をひきずって、白鳥をつれ、巨男(おおおとこ)は広い広い沙漠(さばく)をくる日もくる日も歩いていきました。巨男(おおおとこ)は、また大きな大理石を三つもらって(みやこ)に帰りました。すぐその日からつちとのみをとってそれを切りはじめました。
(とう)はますます高くなりましたよ。
 空がくもって星がみられない夜でも、巨男(おおおとこ)()はたった一つの星のようにポツンとうかび出ていました。

 それは、すこし風のつよい(よい)でした。(みやこ)の人びとは、(まど)から(とう)の上の()をあおいでみました。()は風のために、ゆらゆらゆれていました。人びとはそのとき、はじめて巨男(おおおとこ)がかわいそうになりました。王様も(まど)から顔をお出しになって、(とう)の上をみました。ごーごーとなる風のすきまに、巨男(おおおとこ)のつちの音がかすかに聞こえてきました。やはり王様も巨男(おおおとこ)をあわれにお思いになったのか、
「こんな夜に働かせておくのは()(どく)だ。それにあの男は、おとなしい。明日(あした)はもうあの仕事をやめさせよう。」とひとりいわれました。そんなことはすこしも知らずに、巨男(おおおとこ)はこつこつやっていました。そして、どんなことをしたら白鳥をなかせてお姫様(ひめさま)にさせることができるだろうと考えていました。ふと、巨男(おおおとこ)は自分が死んだら――と考えました。そこで、温かい巨男(おおおとこ)()でねむっている白鳥に話しかけました。
「私が死んだら、お前は悲しくないか?」
 すると白鳥は()をさまして、「そんなことをしてはいけない」というように羽ばたきしました。
「私が死んではいけないのかい? それなら、私が死んだらお前は(なみだ)を流すにちがいない。よし! 私はお前のために天国へいこう。」
巨男(おおおとこ)は立ちあがって、背中(せなか)から白鳥をおろしました。白鳥は、とめようとして、巨男(おおおとこ)の着物のはしを引きました。巨男(おおおとこ)は、白鳥と最後の(ほお)ずりをして、
「では、かわいい白鳥よ、さようなら、お前はもとの美しいお姫様(ひめさま)に帰るのだよ……」といって、高い(とう)の上から身を投げました。地に落ちるとただちに死んでしまいました。

(間を開けず[M6]を再生。曲をバックに朗読を続ける)


 白鳥は、どんなになげいたことでしょう。(なみだ)(たき)のように出ました。そして、そのとき魔法(まほう)はとけて、うるわしいもとの王女になりました。王女はなきじゃくりながら、高い(とう)階段(かいだん)をころがるように走りおりて、お父さまの王様の部屋にとびこみました。
 そして、いままでのことを王様に話したんです。王様はそれを聞いて、(おもて)をふせて巨男(おおおとこ)謝罪(しゃざい)し、また感謝(かんしゃ)しました。
 まもなく、王様から(みやこ)の人びとへそれが伝えられたとき、都の人びともないて巨男(おおおとこ)にあやまりました。
巨男(おおおとこ)むくろ月桂樹(げっけいじゅ)の葉でおおわれて都の東にある沙丘(さきゅう)(ほうむ)られました。
 王女は、よく王様やお母さんの(きさき)(もう)しましたよ。
「私は、いつまでも白鳥でいて、巨男(おおおとこ)背中(せなか)にとまっていたかったわ。」

 空がくもっていて、金星がたった一つうるんでみえる夜ふけなど、南国の人びとはいまでも、
「あれは、巨男(おおおとこ)()だ。」と空をあおいで申します。

([M7(終)おはなしのこぶね]を再生して終わり)


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【フリー台本・劇伴としての利用規約】

1.『巨男の話』は著作権が消滅しているため朗読するにあたり許可を受ける必要はありません。原稿は青空文庫から転載しています。詳しい規約をお知りになりたい方は青空文庫のサイトをご参照ください。
https://www.aozora.gr.jp/index.html

2.利用に際して、《朗読らいおん》および作曲者[飯干大嵩]に許可を求める必要はありません。

3.利用の際に、文字や口頭などなんらかの形で作曲者が[飯干大嵩(いいぼしまさたか)]であることを明示してください。

4.非商業利用、商業利用に関わらず利用できます。

5.楽曲の著作権は[飯干大嵩]に帰属します。

6.許可なく二次配布することを禁止します。
あくまでもOP、ED、BGMとしてのフリー音源です。
ここに掲載されている楽曲そのものをコンテンツとして利用する(販売するなど)ことは禁止します。

7.この劇伴はフェードイン・アウトに限り改変を許可します。

8.この劇伴は『巨男の話』以外に使用しても構いません。

(2022年1月31日更新)
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【音源データ】ダウンロード

[(始)おはなしのこぶね]にはロングバーションとフェードアウトバージョンがあります。フェードアウトのタイミングを変えたい方はロングバージョンをご利用ください

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※ここに掲載している『巨男の話』のテキストは青空文庫から転載させて頂きました。二次配布は青空文庫の規約で認められております。
転載にあたり発生した誤植などによる不具合の責任は《朗読らいおん》は負うことができません。
元データが必要な方は下記サイトをご参照ください。
青空文庫に収録されている『巨男の話』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000121/card3313.html
青空文庫収録ファイルについて
https://www.aozora.gr.jp/guide/kijyunn.html

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