群読振り分け台本(#京コン応援2025)

このページでは[第四回 U35京都朗読コンテスト]の課題テキストを群読用に編集したものを掲載しています。
『応援朗読投稿』をする際の群読の一例としてご活用ください。

『応援朗読投稿』の詳細

※このページに掲載されているテキストは、コンテストを主催する《朗読表現研究会》様より許可を得て転載しています。2025年8月11日までの期間限定での掲載となります。

<もくじ>

ワンダーランド

観覧車

朝の走者

星空の余韻

ワンダーランド

(3人で朗読できるように色分けされています。振り分け作成:夜羅)

『ワンダーランド』池田久輝(いけだひさき)

大きな白い翼が真っ青な空へ吸い込まれていく。

そして今日、彼は言葉通りに動き出したのだった。

心から彼のことを応援しているし、誇らしくも思っている。

西の方から海風が吹きつけ、全身を撫でるように通り過ぎていく。その風に乗って微かに声を聞いたような気がした。

僕はぽかんと口を開けたまま、周囲に目を走らせた。
しかし、この展望デッキには僕の他に誰もいない。

ゆっくりと顔を下に向けると、そこには一匹の白いウサギが綺麗に前足を揃えて座っていた。

ウサギはそう言って、ぴょんぴょん跳ね出す。
まるで僕のはいている白いスニーカーが飛び回っているようにも見えた。

ウサギがこちらを向き、焦れったそうに鼻を高く持ち上げていた。

展望デッキの南の角だった。板張りの地面の隅に小さな穴が空いていた。
僕は床板に片膝をつき、そっと中を覗き込んだ。

その靴はずいぶんと歪だった。
縫い目がほどけていたり、革が余ったままになっていたり、靴としてまだ形を成していなかった。
作っている途中なのだろうか。

親友は今日、革靴の職人になるために旅立ったのだ。

つぶらな瞳で僕を見上げるだけだった。

ウサギはその場で一度だけぴょんと跳ねた。

(了)

※テキストの転載にあたり、振り分けをわかりやすくするために体裁を調整しています。

観覧車

(3人で朗読できるように色分けされています。振り分け作成:夜羅)

『観覧車』池田久輝(いけだひさき)

一度目、男は微笑を浮かべた。
そして、二度目は疑問を覗かせた。

電話があったのは昨日のことだった。「明日の午後四時。観覧車で」それだけを告げると電話は切れた。女性の声だと思うが、名乗りもしなければ、具体的な依頼内容もない。

二度目は自嘲した。ありきたりの悪戯だったかと思うようになっていた。
そう考えるのがもっとも自然であるような気がするし、また、そう決めつけることで、この観覧車から離れたくもあった。踊らされた私を影で笑っていようが構わないさ――サカイはふんと鼻を鳴らすのだった。

「依頼者?」

サカイは彼を見つめ、似たような笑みを返した。

「失恋したという理由はどうかな」

彼はすまなそうに少し腰を折り、取り繕うように言った。

「まさか。僕は失恋しても絶対に観覧車なんか乗りませんね。だって、同じところに戻ってくるんですよ。数分前と何も変わらないこの場所に」

「僕だったら、手当たり次第、知り合いに電話をかけて、くだらない話をして憂さを晴らすかな」

サカイはぽかんとしている係員を見つめ、そして言った。

それは、サカイが今もっとも浮かべたい表情でもあった。なぜ三度も観覧車に乗るのか自分でもよくわからない。

(了)

※テキストの転載にあたり、振り分けをわかりやすくするために体裁を調整しています。

朝の走者

(3人で朗読できるように色分けされています。振り分け作成:一朔瑞希)

『朝の走者』池田久輝(いけだひさき)

突然、目が覚めた。辺りはまだほの暗い。
早朝の空気。冷たい透明感。僕の部屋はぴんと張り詰めたように澄んでいた。

不思議と汗が出なかった。そして、まるで疲れる気配もなかった。わけがわからないまま、それでも僕は走り続けた。

僕が気付かなかっただけかもしれない。それくらい背後の足音は僕のものとぴったり重なっていた。
立ち止まろうかと思った。振り返ろうかと思った。けれど、どちらもしなかった。
怖かったわけじゃない。追ってくる足音の正体がなんとなくわかっていたからだ。

いや、「明日の僕」に違いない。その足取りはとても軽やかで、今にも追いつき肩を並べようとしている。

真横から規則的な息づかいが聞こえる。
そこで初めて僕は視線を振った。
「え!?」思わず声が出た。
そこにいたのは明日の僕じゃなかった。

彼女だった。
僕が想いを寄せる彼女の横顔がそこにあったのだ。

彼女はそう言って一歩先を駆ける。

あっという間に遠ざかる彼女の背中。
そうか――こんなに朝早く僕を衝き動かしたのは彼女への想いだったのか。

彼女の姿が小さくなる。どんどん小さくなる……。

彼女じゃない。それは間違いなく「昨日の僕」だった。

「やあ、今日は調子が良さそうだね」と、昨日の僕が言った。

「そうみたいだ。それにしてもなんだか弱々しいな、昨日の僕は」

「知ってるよ。よく知ってる」

「うん、そうだといいな」
僕はそう答え、昨日の僕を追い越した。

小さな彼女の姿が見える。

急がなきゃ――

(了)

※テキストの転載にあたり、振り分けをわかりやすくするために体裁を調整しています。

星空の余韻

(3人で朗読できるように色分けされています。振り分け作成:梧桐ゆぅ)

『星空の余韻』中村理聖(なかむらりさと)

涼やかな風が頬をなぞり、夏の夜空を見上げる。雲一つない闇に、月明かりが浮かんでいる。人気のない駅のホームで、私と隆宏(たかひろ)はベンチに座り、すでに二本、電車を見送っている。私は彼の手を握って、自分一人が寂しがっているような気がした。

精一杯の笑顔を取り繕い、私は「ありがとう」と言う。隆宏は電車と飛行機を乗り継いで海外の転勤先に戻り、しばらく会うことが叶わない。会えることが当たり前でなく、別れ際はひどく寂しい。けれど、彼に笑って欲しいと願うほど、私は口をつぐむ。

時折、通り過ぎる車の音を聞きつつ、私は隆宏のスマホを覗き込む。

その時だった。電車が近づく音が聞こえ、遮断機が下りる。隆宏は手を握ったまま立ち上がり、遠くにある光の塊を見る。別れの瞬間が迫っていた。

ドアに遮られた時、私はとっさに電話をかける。電車は星に導かれるように、夜更けの街を走っていった。

スマホを耳に押し当て、隆宏の声に身をゆだねる。私達はお互い、謝ってばかりだ。そう伝えると、彼は「ふふっ」と笑い、しばらく黙り込んだ。

電車が揺れる轟音が響いた時、ふと、隆宏がビデオ通話に切り替える。画面に映ったのは真っ暗闇で、頭上のきらめく星空とは随分違っていた。

(了)

※テキストの転載にあたり、振り分けをわかりやすくするために体裁を調整しています。

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