86歳で大往生。今はお墓の中で死後の人生を謳歌している?そんな金次の命日には、かつての同僚や家族が訪れる。金次が彼らの悩みに卒塔婆を投げつけながらも叱咤激励していく愛に溢れたコメディです。
長さ30分ほどの声劇台本です。
この台本は作者のシュンタスさんにご許可を頂いて掲載しています。
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命日は賑やかに
シュンタス 作
【配役例】
♂:2 ♀:2
金次 ♂:
吾朗・ボブ ♂:
順子・美雪 ♀:
犬・凛子 ♀:
※あまり年齢は気にせず配役してください
【登場人物】
金次:86歳で亡くなられたナウでヤングなおじいちゃん
吾朗:53歳。金次の職場の後輩。やや気弱。
順子:50歳。スナック<順子>のママ。豪快な人柄。
犬:….犬。のようななにか。
ボブ:謎の外国人。たぶん墓荒らし。お馬鹿。
美雪:52歳。金次の娘。やや腹黒い。
凛子:18歳。金次の孫。素直な良い子。
[以下本文]
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金次「ワシ、金次。ナウでヤングなおじいちゃん。実はの、ワシ3年前に死んどるんじゃ。
齢86歳の大往生でな、わが人生に一遍の悔いなしじゃ。
というわけで、今はお墓の中でセカンドライフならぬサードライフを満喫中じゃ。
なんで死人が喋ってんだよとか、細かいこと気にするやつは祟るからの。
閑話休題、今日はワシの命日でな。生前世話になった人間が訪ねてくる日じゃから、
いつもよりテンション高めじゃ。…ほーれ、さっそく誰か来おったぞ…」
吾朗「金次さん」
金次「ほう、最初の訪問者は職場の後輩じゃった吾朗か。久しいのう」
吾朗「お久しぶりです、金次さん…
あなたが亡くなって、もう3年ですか。時が流れるのは早いですね」
金次「そうじゃのう」
吾朗「金次さんには、たくさんお世話になりました…
新人だった俺を、ここまで叩きあげてくれた御恩…忘れませんよ」
金次「なーに言っちょるか!お前なんぞまだまだ半人前じゃ」
吾朗「覚えてますか金次さん。俺がまだ新人だった頃、
金のない俺に、銀座で寿司奢ってくれましたよね」
金次「覚えとる、覚えとる。あの頃はみんな羽振りが良かったのう」
吾朗「あの時の寿司屋、潰れちゃいましたよ」
金次「えっ…そんな暗い話になるのか?」
吾朗「うちの会社も、あと何年もつか…」
金次「おいおいおい、
そこは当時の寿司の味を思い出してホロッと泣ける良いシーンに行くべきじゃろ?」
吾朗「俺がそっち側にいく日も、近いかもしれません」
金次「早まるな馬鹿もーーーーん!!」
吾朗「最近の若いもんは、飯奢ってやっても全然喜ばないし、
女性社員を飲み会に誘えばセクハラ親父扱いですよ…ははっ」
金次「…切実すぎるわっ!!」
吾朗「あなたの下で働いてた頃は…楽しかった」
金次「吾朗…」
吾朗「上の立場になって…
やっとあなたの抱えていたモノの、重さを知りましたよ」
金次「馬鹿もん…」
吾朗「俺には…上に立つ器なんか、なかったのかも知れませんね」
金次「上に立つもんが…そんな弱腰でどうするかっ!」
吾朗「俺、明日仕事辞めようと思うんです。
退職金も悪くない額だし、後は若いもんに任せて…」
金次「(食い気味に)卒塔婆アターック!!!」
吾朗「いってぇっ…急に…卒塔婆が倒れて…」
金次「今辞めることはワシが許さんぞ。最後まで責任を全うしてこい!」
吾朗「金次さん…もしかして、俺に辞めるなと言いたいんですか?」
金次「そうじゃ」
吾朗「金次さん…お陰で目が覚めましたっ…俺、俺っ…もう一回頑張ってきます!」
金次「線香も上げずに行ってもうた…全く、そそっかしいやつじゃ。
だから何時まで経っても、ケツの青いガキなんじゃて…
頑張れよ…吾朗」
少し間
金次「さーてと、次の訪問者は誰かのう…できれば暗いやつ以外で…お、来たのう」
順子「久しぶりね、金次さん!」
金次「おやおや、これは珍しい顔が来たもんじゃ。
ワシがよく通っとったスナック<順子>のママさんじゃないか。
相変わらず、ええ体しとるのう…」
順子「あなたが亡くなってから、こっちは商売あがったりよ」
金次「ふぉっふぉふぉ。このブラックなジョークも久しいのう」
順子「ただでさえ、最近不景気じゃない?
ホント…あなたみたいに豪快に遊ぶ人、減っちゃったわ」
金次「景気の波には勝てんのう」
順子「夫がね、会社辞めるとか言い出しちゃって」
金次「もしかして…また暗い話かのう…」
順子「辞めちゃいなって言ってやったわ!」
金次「さすがママさんじゃ!豪快じゃのう」
順子「そしたらね、面白いのよ金次さん!」
金次「どうなったんじゃ?どうなったんじゃ?!」
順子「夫が退職金持ってどっか逃げちゃった」
金次「…」
順子「金次さん…」
金次「なんじゃ…」
順子「私っ…これからどうやって生きていけばいいの…!!」
金次「重すぎるわっ!その悩みは死人には重すぎるわー!!」
順子「ぐすっ…ごめんなさい金次さん。
墓前(ぼぜん)でこんな話…するべきじゃないわよね」
金次「…まったくじゃ」
順子「あ、そうだっ…今日はね!お土産にこれ持ってきたのよ」
金次「お、供え物か。気がきくのう」
順子「ほら、名門堂のおまんじゅう。金次さん、好きだったよね」
金次「うほおお!ワシの大好物じゃー!」
順子「お金がないから…2個しか買えなかったけど」
金次「十分じゃ!ありがとうのう。2個あるなら順子さんも食べい」
順子「一緒に食べましょ…あっ」
金次「あっ」
順子「1個…落としちゃった」
金次「…い、いいんじゃよ。残り1個は順子さんが…食べればよい」
順子「ま、大丈夫よね♪」
金次「落ちたもんを供えるでないわっ!」
順子「一緒に食べましょ」
金次「この泥まみれのまんじゅうを食えとっ!?」
順子「金次さんなんでも食べれたから、平気よね」
金次「卒塔婆アターック!!」
順子「きゃあっ…卒塔婆が…」
金次「供え物には礼を言うが、ワシのちょっとした仕返しじゃ…」
順子「そっか。金次さん…怒ってるのね」
金次「いや怒ってるわけでは…」
順子「暗い話ばっかりだからっ!」
金次「いやまんじゅう落としたから…」
順子「…ごめんね。金次さん、頑張れって言ってくれてるのよね。ありがとう」
金次「…もういいわい、それで」
順子「また来るわ、金次さん…私、頑張るからね」
金次「行ってもうたか…この泥まみれのまんじゅう…どうしろって言うんじゃ…
ま、いいかの。…何はともあれ、元気な顔を見れて安心したわい。
…また来いよ、順子さん」
少し間
金次「さて、次は…誰かのう。ここであまり言うとフラグになりそうで怖いんじゃが…
できれば暗いやつ以外で…これ以上は卒塔婆が何本あっても足りん…来たみたいだの」
ボブ「オオゥ、キンジィ…」
金次「誰じゃこいつ…」
ボブ「キンジィ…サムラーイ」
金次「な、なんじゃ…」
ボブ「オオウ、マイ、ガッド!!」
金次「んなっ!こ奴っ…泥まみれのまんじゅうをっ!!」
ボブ「アメィジンッ…」
金次「食いおった!」
ボブ「テイスッグッ!」
金次「なんちゅう味覚してんじゃ…」
ボブ「マンジュウタリナーイ」
金次「卒塔婆アターック!!」
ボブ「アウチッ…」
金次「帰れ!!この不届き者めがー!」
ボブ「ママー」
金次「全く!何だったんじゃ!!あんな奴知り合いにはおらんかったぞ…
ワシのまんじゅう食われたし…まぁ泥まみれで食えなかったんじゃが…」
少し間
金次「先のやつ、注文通り暗い奴ではなかったが、まともな訪問者ではなかったのう。
…いい加減、卒塔婆のストックがないんじゃが。さて次は…ん?」
犬「わんっ!」
金次「これはこれは…可愛らしい訪問者じゃ」
犬「わんわんっ!」
金次「なんじゃお主…ワシが見えておるのか?」
犬「わん」
金次「そうかそうか。
どうじゃ?お主、一緒の墓に入らんか?楽しいぞぉ…なんつってのう!」
犬「ふざけんなよ」
金次「…へ?」
犬「誰がお前と一緒の墓なんか入るか、この耄碌(もうろく)ジジイ」
金次「しゃ、しゃべったあああああああああ!!」
犬「喋れるに決まってんだろ、犬なんだから」
金次「ワシの記憶が正しければ、犬は人語を喋れなかったはずじゃが…」
犬「これだからボケた爺さんは…」
金次「お主、かわいい声して言うこと辛辣(しんらつ)じゃのう…」
犬「そうだ、ひとつ良いこと教えてやんよ」
金次「な、なんじゃ?」
犬「お前の墓の裏、野良犬の便所になってるよ」
金次「な、なんじゃと!」
犬「くっせー」
金次「こ、こやつぅ…」
犬「あれぇ?ここってウンチしていいのかなぁ?」
金次「やめんかっ!そこは供え物を置く場所…」
犬「えい」
金次「そ、卒塔婆アターック!!」
犬「うわぁ!何すんだー!」
金次「失せんかっ犬公!!…ったく、なんでこう碌なやつが来ないんじゃ」
ボブ「オオゥ、キンジィ」
金次「貴様っ…さっきの…!」
ボブ「オウ、マイ、ガッド!」
金次「ま、まてっ…!それはマンジュウではないぞっ…!!」
ボブ「マンジュウタリナーイ」
金次「早まるなっ!」
ボブ「アメィジ….ンッ…?!」
金次「ウンチ…食いおった」
ボブ「オオゥ…クサイニオイ…」
金次「だ…大丈夫か?」
ボブ「….テイスッグッ…!」
金次「…」
ボブ「クサイニオイ…タマラナーイ」
金次「卒塔婆アターック!!」
ボブ「アウチッ」
金次「気色悪いわ!」
ボブ「ママー」
少し間
金次「はぁ…とうとう卒塔婆が無くなってしもうた…
というか、未だに親族が誰も来ないのはなんでじゃ!!
まさか…嫌われて、おったのかのう…」
美雪「ほらっ急ぎなさい凛子」
凛子「待ってよーお母さん」
金次「あれはっ…!娘の美雪と孫娘の凛子!
…全く、来るのが遅いんじゃ…ちょっとネガティブになりかけたわい」
美雪「ちょっとなにこれっ!卒塔婆が全部倒れちゃってるじゃない!」
凛子「は、墓荒らし…?」
美雪「…粋な真似してくれるわっ!」
金次「違うじゃろ?抱く感想間違ってるじゃろ?!」
凛子「お母さん…それを言うなら無粋な真似、でしょ」
美雪「あら私ったら…うっかりしちゃった♪」
金次「50過ぎてそのセリフとモーションは痛いぞ!わが娘よっ!」
凛子「早く戻してあげなきゃ…おじいちゃん可哀そうだよぉ」
金次「はあぁ…凛子ぉ…お主は良い子じゃなぁ…(涙声)」
美雪「わからないよぉ?
お父さんのことだから、自分から誰かに投げつけたのかも」
金次「ぎくぅっ…」
凛子「あははっ…まさか、おじいちゃんはそんなことしないよぉ」
金次「…すまんっ凛子!おじいちゃん投げちゃった!
なんかいろいろムカついて卒塔婆投げちゃった!」
美雪「さて、名門堂のおまんじゅうお供えして、お線香あげましょ」
凛子「うん」
金次「名門堂のまんじゅう!流石は娘じゃ。ワシの好物をちゃんと用意して来たか!」
美雪・凛子「・・・(合掌)」
金次「むう…心の中で念じてもワシには聞こえんぞ…」
美雪・凛子「・・・(合掌)」
金次「暇じゃ暇じゃ!なんか喋らんか!
…しかたない、暇じゃから孫娘の発育のほどでも見てやるかの」
凛子「…!…お、お母さん、なんか今ゾクってきた」
美雪「おじいちゃんがセクハラしてるのよ」
金次「なんでバレたんじゃっ!」
美雪「おじいちゃんスケベだったから」
凛子「おじいちゃん…最低」
金次「なんでじゃー!!憶測でモノを言うでないわ!間違ってないけど!」
美雪「お父さん。凛子は上から86・62・82よ」
凛子「なっ!お、お母さん!!///」
金次「ほう…なかなか」
美雪「お父さんはこういうのが一番うれしいのよ、ね?」
金次「うむ、よく育っておる」
美雪「今頃、<うむ、よく育っておる>とか言ってるわ」
凛子「むぅ…おじいちゃん。お母さんは上から92・76・90だからねっ!」
美雪「なっ!!こら凛子!!」
凛子「こういうのが嬉しいんでしょ!」
金次「ふむ、ちょっと肉がついたか」
美雪「うるさいわー!!」
金次「うおぉっ…!!」
凛子「ちょっとお母さん…!何やってるの!」
美雪「はっ…!なんか今、お父さんに肉がついたとか言われた気がして、つい」
金次「なんて鋭いやつじゃ…殺す気か…もうワシ死んでるけど」
美雪「お父さん。報告が遅くなったけど、凛子が大学受かったわ」
凛子「これから頑張るから。おじいちゃん…見守ってね」
金次「そうかそうか!!めでたいのう!頑張れよ凛子。ちゃんと見守っておるぞ」
美雪「それじゃ、またねお父さん」
凛子「また来るね、おじいちゃん」
金次「うむ…いつでも来い、待っておるぞ。
はぁ、ワシは幸せ者じゃあ…こんなに多くの者が訪ねて来てくれるんじゃからのう…」
ボブ「オオゥ、キンジィ…」
金次「待て、せっかく綺麗にしめようとしとるんじゃ!邪魔をするでない!」
ボブ「マンジュウ、タリナーイ」
金次「やめんかっ!…卒塔婆アターック!」
ボブ「オオウ、マイ、ガット!」
凛子N「たくさんの人に愛されたおじいちゃん。
今日もまた、お墓の周りには卒塔婆がたくさん転がっています。
それは、おじいちゃんが生きた証なのかもしれません」
FIN
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(2024年10月12日更新)
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