中学生の男子と女子が横浜でデートします。そしてちょっぴり悪いことをします。そんな台本です。
3人での朗読に適しています。
長さは10分と少しです。
最後の[アドリブ]は入れなくても成立します。
入れたい一言を思い付いたら入れてみてください。
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悪いこと
柳原路耀(ヤナギハラロック) 作
[登場人物]
館野匠吾(たての しょうご) 14歳中学生
小林萌々花(こばやし ももか) 14歳中学生
語り
[以下本文]
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1
夕暮れの横浜。
ライオンシネマみなとみらい・チケット売り場。
カップルや親子連れで混雑している。
壁に映画ポスターが並んでいる。
『真夏のいたずら』というR15の映画ポスターが貼ってある。
そのポスターの前を歩く小林萌々花(こばやし ももか)14歳。その後ろから、同い年の館野匠吾(たての しょうご)が追いかけてきて、腕を掴む。
匠吾「待って」
萌々花が振り向き、掴まれている腕を見る。
匠吾が慌てて手を離す。
萌々花がチケットを掲げて聞く。
萌々花「真夏のいたずら、見たくない?」
匠吾「見たいけど…」
匠吾はポスターの『R15』という文字を見る。
萌々花が無邪気な笑顔で言う。
萌々花「年齢制限なんか全然平気だよ。あたし、小学生の頃からR15見てるもん」
匠吾は少し驚いた顔になる。
匠吾「入口で止められない?」
萌々花「うちら14歳だよ。1歳の差なんてバレないよ。もし止められたら、ポケモンのチケットを買うっていう手もあるし」
匠吾「ポケモン見るの?」
萌々花は、ずるそうな顔になって言う。
萌々花「中に入っちゃえば、真夏のいたずらを見るに決まってるじゃん」
匠吾の口がポカンと開(あ)く。
萌々花「ね、平気でしょ」
萌々花が入場口へと歩く。スタッフにチケットを見せようとすると、匠吾の姿がない。
匠吾は少し離れたところでモジモジしている。
萌々花が入場口で止まっているので、後ろから来た客が渋滞している。
2
二人は映画を見るのを諦めて、横浜スペースワールドの観覧車に乗る。
イルミネーションが輝く観覧車の中心には、大きなデジタル時計が付いている。時刻は夜の7時。健全な青少年は家に帰る時間である。
二人が乗るゴンドラから夜景が見える。
しかし萌々花は不機嫌そうな顔をしている。
匠吾が向かい側に座り、萌々花の顔色をうかがっている。
匠吾「小林さん、怒ってる?」
萌々花は夜景を見たまま言う。
萌々花「別に」
匠吾が財布から千円札を出して、萌々花に渡そうとする。
匠吾「これ、映画、見れなかったから」
萌々花はチラリと千円札を見る。
萌々花「匠吾が、あの映画を見たそうに言うから、プールさぼって来たのに」
匠吾「見たかったけど…僕たち、まだ15歳じゃないから…悪いことだから」
萌々花「匠吾もプールさぼったじゃん。もう悪いことしてるじゃん」
匠吾が千円札を引っ込めて、うつむく。
萌々花が匠吾の財布を覗き込む。
萌々花「いっぱい入ってる」
匠吾「お小遣いをもらう前だから、少ないよ」
萌々花「お小遣い、いくらもらってるの?」
匠吾「えっと、10万円」
萌々花「10万!」
匠吾「多い?」
萌々花「多いよ! 親、なんの仕事してるの?」
匠吾「医者」
萌々花「お父さんが?」
匠吾「お父さんもお母さんも」
萌々花「うそっ・・・!」
匠吾「小林さんの親は?」
萌々花は、夜景に目を移す。
萌々花「わあ、きれいだね~」
匠吾「うん、ちょうどてっぺんだね」
窓から横浜の夜景が一望できる。ゴンドラは頂点から、段々と低くなっていく。
萌々花「あ~あ、夏休みも終わっちゃうなぁ。もう一回海に行きたかったなぁ」
匠吾「海、行ったの?」
萌々花「行ったよ、ほら」
萌々花がTシャツの襟ぐりを引っ張って、水着の跡を見せる。しかし、薄暗くてよく見えない。
匠吾が顔を近づける。
萌々花「日焼けの跡、ほら、わかる?」
匠吾がさらに顔を近づける。その拍子にバランスを崩して倒れかかる。萌々花が両手を伸ばし、匠吾の体を突っぱねる。
萌々花「キスしようとしたでしょ」
匠吾「してないよ」
萌々花「した」
匠吾「してない」
萌々花「ファーストキスは簡単にあげないんだから」
萌々花が唇を堅く閉じる。
3
スペースワールドのお土産屋『スペースショップ』
数人の客がいる。レジには、女性の店員がいる。
萌々花がスペースワールドのマスコット人形『コメットちゃん』を手にとって値札を確認する。『2800円』とある。
萌々花「買えないや」
萌々花がコメットちゃんを棚に戻す。
匠吾「僕が買ってあげる」
匠吾はコメットちゃんを手に取り、レジに並ぶ。会計の順番が来るのを待つ。萌々花は、棒が付いているアメを棚からとって、指でクルクルと回す。
会計中の客が小銭を落とし、皆の視線がそちらに注がれる。
萌々花「それ、いらないから、行こう」
匠吾が振り返ると、店を出ていく萌々花が見える。
レジでは、転がった小銭を探している。
匠吾は萌々花に置いていかれまいと、急いでコメットちゃんを戻して、店を出る。
スペースショップから、少し離れたところ。観覧車やジェットコースターなどのアトラクションが周りに見える。人はまばら。
匠吾が萌々花を追いかける。
匠吾「小林さん!」
止まって振り返った萌々花は、棒がついたアメを舐めている。
萌々花が、ずるそうに笑う。
萌々花「これ、万引きしたと思う?」
匠吾がおそるおそる頷く。
萌々花「チクる?」
匠吾が首を大きく横に振る。
萌々花「本当?」
匠吾「絶対言わない」
萌々花がスカートを揺らしながら、腰のところをポン、ポン、と叩く。
匠吾がズボンのポケットを探って、ハッと驚いた顔になる。ポケットから萌々花と同じ棒つきのアメが出てくる。
匠吾「どうしてここに入ってるの・・・?」
萌々花「匠吾、万引きしたの?」
匠吾「してない! 小林さんが入れたの?」
萌々花「ふふ、それを舐めたら、仲間だね」
匠吾が手の中のアメを見つめて固まる。
萌々花「映画のことも許してあげるよ」
匠吾がアメの包みを開き、口に差し入れようとして、迷う。
萌々花が、スペースショップの方に目を移す。
萌々花「ヤバイ!」
萌々花が駆け出す。
匠吾が振り返ると、女性店員がこっちに歩いてくる。
匠吾も必死になって駆け出す。途中でアメを投げ捨てる。
明かりが届きにくいフェンス際(ぎわ)までやってきた二人。しばし息を整える。萌々花がアメを突きつけて聞く。
萌々花「匠吾のは!?」
匠吾「・・・捨てた」
萌々花「どうして捨てちゃうわけ!?」
匠吾「万引きは、悪いことだから」
萌々花「悪い女は、嫌い?」
匠吾は答えられず、身を縮めて腕をひっかく。
萌々花がアメを差し向ける。
萌々花「じゃあ代わりにこれを舐めたら、許してあげる」
匠吾「小林さんが舐めたやつでしょ・・・?」
萌々花「そうだよ」
萌々花が、アメをさらに近づける。
匠吾が口を開きかけ、ためらう。
萌々花「あたしのこと、好きじゃないんだ」
匠吾はアメをよけ、一瞬のうちに顔を近づけて、萌々花の唇を奪う。アメがポロリと落ちる。呆然とする萌々花を置き去りにして、匠吾は駆け出す。
萌々花「ファーストキス…」
萌々花は唇に指を添え、我に返って叫ぶ。
萌々花「どろぼー!」
その声を背に受けながら、匠吾は必死な顔で駆けていく。
匠吾「(アドリブで一言)」
(おわり)
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(2023年6月14日更新)
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