彼氏がスマホばっかりいじってるので取り上げてみた。
少しは反省するといい。
本当に必要なものとは、何だろう?
長さ20分ほどの声劇台本です。
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スマ中!
白石謙悟 作
[登場人物]
男◇スマホ中毒
女◇彼氏のスマホ中毒をなんとかしたい
「0:」はト書きであることを示す記号です。
(N)はナレーションであることを示す記号です。
[以下本文]
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0:男と女、向かい合って座っている
0:スマホに夢中になっている様子の男
0:不満げに眺めている女
女:……ねぇ。
男:……。
女:ねぇってば。
男:……。
女:……オイッ!
男:えっ!? あっ、ごめん、何?
女:あのさぁ、喧嘩売ってんの?
男:はっ!? いや、売ってないよ。どうした?
女:どうした? じゃねーんだよ!
女:無自覚なの? いや、そうだろうなぁ。
女:意図的にやってるんだとしたら、ぶっ飛ばしてるわ。
男:ちょ、ちょっと、何なの?
男:俺、何か怒らすようなことした?
女:怒らすようなことしかしてねぇよ!
女:とりあえず、スマホ置け!
男:えー……わかったよ。
男:何なんだよ、もう……。
0:男、スマホをテーブルに置く
女:それで、何で私がこんなにイライラしてるのか、わかる?
男:ご飯、美味しくなかった?
男:パスタ食べたいって言うから、頑張ってリサーチしたんだけど。
女:違う。
男:あぁ、疲れちゃった?
男:結構歩いたもんね、今日。
女:違う!
男:えー、じゃあ何だろ。
男:わかんないな……。
0:男、自然な動きでスマホを手に取り、いじりだす
女:それだよ!
男:えッ!?
女:今さぁ、めっちゃ自然なムーブでスマホいじりだしたよね!
女:気付いてる!?
男:あっ……。
女:気付いてないよなぁ。
女:もうね、相当ヤバいレベルよ。
女:ずっっっっとスマホいじってるから、あなた。
男:マジで……?
男:そんなヤバい?
女:うん。あれね、もうスマホ中毒だわ。
男:そっかぁ。さすがに何とかしないとなぁ。
0:と言いつつ、スマホをいじりだす男
女:言ったそばからいじってんじゃねぇよ!
0:女、男からスマホを奪い取る
男:あっ! 返してよ~。
女:うっせぇわ!
女:ウマ育ててる暇があったら、リアル彼女の相手しろよ!
男:悪かったって。
男:控えるから、スマホ返して。ね、お願い。
女:もうそれ、信用しないから。
女:さすがに私もね、堪忍袋の緒がブチ切れたよ。
男:そんなぁ~、スマホ~。
女:私とスマホ、どっちが大事なのよ!
男:そりゃ……お前だよ。
女:言ったわね。聞いたからね。
男:じゃ、スマホ返してもろて……。
女:はい。
0:女、男にケータイを渡す
男:え……。何、これ。
女:今日からしばらく、それ使って。
男:ガラケーじゃん、これぇ!
男:何でぇ!?
女:十分でしょ?
女:通話とメールはできるし、困ることなんてないじゃん。
男:いや、困るよ! めっちゃ困る!
女:何が困るの?
男:……ゲームできないし……。
女:必要ある?
男:動画とか、見れない。
女:必要ある?
男:……。
女:心配しなくても、そのうち返すから。
女:ちょっと反省してくれればいいの。
男:わかったよ……。
男:(N)この時、俺は理解していなかった。
男:自分が、どれほどスマホに毒されていたのかを……。
女:(N)彼氏のスマホを取り上げて3日目。
女:スキマ時間にスマホをいじれないことが、相当こたえているようだ。
男:……あっ。
女:またぁ?
男:はは……そっか、ないんだった。
男:駄目だなぁ、すぐポケットに手ぇ入れちゃうよ。
女:どんだけスマホに依存してたか、わかった?
男:うん……。
女:ま、良い機会でしょ。
女:ちょっと異常なレベルだったしさ。
女:デジタルデトックスって言うの?
女:流行ってるみたいだし、ちょうどいいじゃん。
男:そ、そうだね……。
男:(ポケットに手を入れ)あっ。
女:まだしばらくは預かっとくからね~。
男:……。
女:(N)彼氏のスマホを取り上げて7日目。
女:少しはスマホから離れられてきたかなー。
女:……そう思い始めた矢先の出来事。
男:うわあああああああん!
女:えっ、ちょっ、どうした!?
男:返して!
男:スマホ返してぇぇぇッ!
女:はぁ!? 何、突然。
男:もういいじゃん!
男:一週間も頑張ったんだよ!
男:返してくれよぉぉぉッ!
女:駄目ッ!
男:どうしてだよぉぉぉぉッ!
女:ここで返したら……また同じことの繰り返しよ!
男:フーッ……フーッ……。
女:あなたのためなの……わかって!
女:(N)彼氏のスマホを取り上げて15日目。
女:スマホを返せと暴れていた彼が、急に大人しくなった。
女:ついに、スマホ中毒を脱することができたのだろうか?
0:椅子に座り、不審な動きをしている彼氏
男:ふんふふーん。
女:えっ……。あの動き、何で……!?
女:スマホは預かってるはずなのに……。
男:ふんふんふふふーん。
女:まさかあいつ……新しいスマホ買いやがったなァ!
男:へへっ、へへへ……。
女:……?
女:いや、違う……あれは!
男:スワイプ、スワイプ~。タップ、イェーイ。
女:エア・スマホ……!
女:あなた、そこまで……!
男:おっ、俺のツイートめちゃバズってるじゃ~ん。
男:リプ返すのめんどくせぇなぁ~、うへへィ。
男:ウマも育てなきゃ~、うまぴょい! うまぴょい!
女:こりゃ、ちょっと別の意味でヤバいわ……。
女:(N)翌日、私は彼氏にスマホを返すことにした。
女:このままでは、彼は帰って来れなくなるような気がしたから。
男:何? 話って。
女:あの……。ごめんね。もう、見てられないわ……。
男:ん?
女:これ、返すね。
0:女、預かっていたスマホを置く
男:……。
女:私が間違ってた。
女:あなたの心を壊してまでやることじゃなかったよね。
男:何だ、そんなことか。
女:えっ?
男:もう必要ないよ、俺には。
女:う、嘘でしょ……。
女:何があったのよ。
男:間違ってたのは、俺の方さ。
男:所詮、スマホなんて道具でしかないんだ。
男:使うものであって、使われるものじゃない。
女:めちゃ悟ってるやん……。
男:お前もさ、スマホなんて捨てようぜ!
女:えっ、私!?
男:こんなものがあるから、人は自由に生きられないんだよ!
女:いや、あの……。
男:俺なんか、ガラケーも捨てちまったからな!
女:はぁ!? ちょっと、勝手なことしないでよ!
男:ミニマリスト、サイコーッ!
女:話を聞けッ!
女:(N)結局、彼氏のゴリ押しもあって、私もスマホを手放した。
女:電話も、LINEも、SNSも、現代の必需品を全て失った。
女:そうすれば、当然……。
男:あれぇ?
男:待ち合わせって、改札前だったよな。
男:ちゃんと手紙読んでんのかぁ、あいつ。
女:もう、いないし!
女:絶対、手紙読んでないっしょ、あいつ!
0:二人が合流する
男:あ、いたいた。
男:おーい!
女:ねぇ、待ち合わせはパン屋さんの前って書いといたよね!
男:えっ、改札前でしょ?
女:それ、ひとつ前の手紙!
女:ちゃんと全部確認して!
男:あー……はは、ごめんごめん。
女:ったく、もー……。
男:(N)不便なこと、この上ない。
男:でも、その分、彼女と向き合う時間が増えた。
女:地図、持ってきた?
男:ほい。
女:えーっと……。
女:北口から出て、大通りを真っ直ぐ……。
男:……なぁ。
女:何?
男:いちいち手紙書くの、めんどくさいよ。
女:へぇ、じゃ、どうするの?
女:スマホ買っちゃう?
男:一緒に暮らさない?
女:えっ?
男:(N)手放したおかげで、見えてくるものもある。
男:俺はずっと、身近にある幸せに、気付けていなかった。
女:話って何?
男:……。
女:どうしたの、モジモジしちゃって。
男:……これ、受け取ってほしい。
0:男、小さなケースを取り出す
女:……指輪?
男:うん。……結婚しよう。
女:……嬉しい。
男:(N)愛を育むのに必要なのは、お互いを想い合う気持ち!
男:それ以外、何も要らないんだ!
0:結婚後、新居を訪れた二人
女:さぁて、引っ越しも終わったし、新生活の始まりだね。
男:色々と必要なもの、そろえないとな。
女:そうね……必要なもの……。
男:うん……。
0:静かに顔を見合わせる二人
女:スマホ……かな……。
男:それな。
(おしまい)
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(2023年6月21日更新)
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