朗読らいおんでは、これまで『U35京都朗読コンテスト』応援企画として、「京都朗読コンテスト応援朗読会」等を企画してまいりました。第三回大会の開催を受け、今回は第二回京都朗読コンテストで最優秀賞を受賞されたシラフさんに、主催の柳原路耀とスタッフさらみがインタビュー。ラッパーならではの視点や表現について、朗読好きはもちろん、言語表現に関わる全ての人に耳寄りなお話を伺いました!
〔このインタビューは2024年5月22日に実施しました〕
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〇 シラフ
第二回京都朗読コンテスト最優秀賞受賞者にしてラッパー。 1999年生まれ。島根県出身。 新社会人時代、仕事でうつ病になったことをきっかけに自己表現として本格的に音楽活動を始める。 社会に訴えたいことをラップにする大会『NIKKEI RAP LIVE VOICE』では、苦しんだ新社会人経験の苦悩を描いた楽曲が評価され、初代王者に輝いた。
〇柳原路耀
《朗読らいおん》の主宰。朗読イベントのプロデュース、朗読劇の脚本を担当している。
〇さらみ
《朗読らいおん》スタッフ。朗読(配信・ステージ)や読み聞かせボランティア、舞台俳優などをしている三児の母。栃木県在住。
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●朗読との意外な出会い
▽出会いは高校2年生
▽1日15分の練習で全国へ!
路耀)(インタビュー前の自己紹介の中で)朗読歴とかっていう話がね、さらみさんから出たんですけど、朗読歴ってシラフさん長いんですか?
シラフ)朗読の歴から言うと、一番最初に朗読に出会ったのが高校の二年生だったんですね。僕、中学高校が吹奏楽部だったんですけど、その高校の定期演奏会の名物みたいな企画でミュージカルみたいなのがあったんですよ。先輩から「お前はあんま声が出てないから、放送部の先生に見てもらえ」って言われて、正直そんなわけないと思って。なんで行かなあかんねんと思ってたんですけど。行って聞いてもらったら、「いや別に声出てるし、全然滑舌もいいし、いやいいじゃん」みたいなこと言われて、まじでザマァ見ろって思ったんですよ、先輩のこと。
路耀)うんうん、ふふ。
シラフ)でね、モヤモヤから解放されて、「よし僕は部活に戻ります」って言おうとした時に、先生が「来年、放送部でラジオドラマ作るから出てくれよ」みたいなこと言われて。でも、僕は吹奏楽を本気でやってたので……強豪校だったんですよ。二足のわらじを履く余裕なんてないし、先生もノリで言ったんだろうなって思って、はーいって言ってたら…次の年の春に先生に呼ばれて、マジで台本渡されて。「お前は朗読もやったほうが良い」みたいに言われて。
路・さ)えぇ~。
シラフ)僕、吹奏楽部でも主力のプレーヤーだったんで、NHKのNコンって大会だけ出ていいよって制約をもらって、1日15分だけ練習していいよって。それが高校二年の5月くらい。そこからNHKの全国大会が終わるまでの3ヶ月間くらいをとりあえず高校2年・3年と合わせて半年分くらいやった感じですね。なんで、歴って言うと難しいんですよ。全部合わせたら6年から8年くらいになるのかなって歴だけで言えば。でも、密度がスカスカの。なんかスカスカに高校2年間と社会人の2年があって、大学から放送が学べる大学に行ったんで、割と大学4年間はきっちりやってって感じです。
路耀)その15分しか練習しちゃいけないっていうのは放送部の先生が言ってるんですか?
シラフ)いや、これは吹部の先生が言ってます。お前の主軸は吹奏楽だから放送に割く時間なんてって気持ちもあったんでしょうね。結局僕、(朗読を)始めて1ヶ月で全国大会まで行けたんですよね。
路・さ)えぇ~!
さらみ)1日15分の練習で全国大会まで行っちゃうって、天才じゃないですか!
シラフ)いや全然。でも僕、自分で言うのもおこがましいんですけど、耳が抜群にいいんですよ。今まで耳で聞いたものの中で再現できなかったものがほぼないぐらい、耳がいいんですね。それはオーケストラピッチだったり、いろんな音の音程だったり、全部。それに僕はモノマネが得意っていうのもあったんで、再現性が非常に高かったんですよね。なので、聞いたものを、何が良くて何が悪いかの判別をつけるまでに本当に時間がかからないんですよ。「これがこの世界でいいとされてるものなのね」っていうのを、朗読ならなんとなく全国のやつを聞かされて「この通りにやればいいとこまで行けるんだね」って。ちょっと良くないけど、表現者としては。だけど、スキルを盗むという点においては相当早かったと思います。
さらみ)わかります。仰ってること。やっぱりまずは一流を模倣するところから表現のスキル習得は始まるって言われるので。全くそのとおりだなって。
●『良い朗読』とは
▽個性ってなんだ
▽一般の人が面白いと思うことが重要
路耀)引き続き伺いたいんですが、例えば、自分の朗読の良し悪しってどうですか?自分から出したものって、ちょっと客観的に見れないっていうのがあるじゃないですか。
シラフ)おっしゃるとおり。
路耀)そこのところはどういう捉え方されてますか?
シラフ)確かに、一番最初にぶつかった壁ってそこだったと思うんですよね。個性ってなんだっていうところにぶつかった瞬間が。なんだろう、僕自身が判断できないことが多すぎるんで、自分の読みって。常に練習でも自分の中のベストは出してるんで。人が聞いた時に面白いかどうかの判別はほしいんで、僕は基本的に超素人のやつにしか聞いてもらわないです、自分の読みは。そこで判断してます。
路耀)じゃあ、先生みたいな人とか
シラフ)僕ね、いないんですよそういう人。世の中に届けたいものって、有識者が頷けば良いってわけじゃないんですよね、結局。
路・さ)うんうん。
シラフ)滑舌とか練習するのも大事なんですけど、なんか、僕は一般の人達がいかに面白いって思うかどうかがすごく重要だと思ってて。なにか評価される部分は、別に好きな人が好きなだけ技術面は評価すればいいけど。僕はそういう意味でいうと、自分の中の正解フォルダみたいなものが(京コン)1回目の飯干さんも含めていっぱいあったんです。その答えのファイルがあるから、それ以上自分のことで悩む必要はないなって思いました。
さらみ)んー!うんうん!
路耀)ちょっと難しいんだけど。
シラフ)要は、自分の頭の中にある正解の保存ファイルと照らし合わせた時に、それと同じぐらいみんなが面白いって言ってくれるならいいものだ、くらいの感覚ですね。
路耀)それは、第一回目から第二回目の受賞を取りに行く上で、修正点っていうか取捨選択があったんですか?(※シラフさんは第一回京都朗読コンテストにも出場。惜しくも受賞を逃し、第二回大会でリベンジを果たした)
シラフ)それ、僕の良いところでも悪いところでもあるんですけど、基本的にあんまり考えすぎると、転んじゃうんですよ。前回あれだったからこうしようっていうのをやっちゃうと、僕はすごい下手になっちゃうので。本当にちゃんと大会の決勝戦の読みを練習し始めたのは、恥ずかしい話10日前からなんですよ。第二回目より第一回目のほうがめっちゃ読み込んでましたし。修正しようっていう気持ちはありました。というのも、一回目の飯干さんの読みを聞いた時は、かなり僕の中では衝撃的だったので。
路耀)上手かったってこと?
シラフ)上手かったっすね。なるほどねってなりました。僕はそれまでいいと思っていた”Nコンの型”で勝負してたんですよ、一回目の時に。でも、飯干さんを見た時に、なんか上手いとかそんなんじゃなかったんですよ。なんか、すげぇ!カッケー!みたいなのがあって。でもそれって、いわゆるさっき言った有識者が上手いって言うものじゃなくて、一般の人が聞いた時に感じる……「なんか、Creepy Nutsって流行ってていい曲だよね」みたいなものが、彼にはあったんですよ。(※Creepy Nuts=2024年リリースの『Bling-Bang-Bang-Born』が国内はもちろん、海外10か国以上のストリーミングチャートで1位を獲得)
路・さ)わかる。
シラフ)心がワクワクするぜ、みたいな。
●勝利の鍵
▽自分の好きな読みをやる
▽別に勝てなくてもいいじゃん
路耀)それこそ、そういうものを選ぼうとしているr.Laboの佐野さんもいたわけじゃない。だから、結局心に訴えるとかって、技術的なこともそうだけど、何かそういうものも佐野さんにはあるんだろうなって私は思ったんですよね。
シラフ)技術ももちろん、見直すべき点はすごく見直しましたけど、今回優勝できたのって、正直かなり現場にいた皆さんのおかげだと思ってて。リハーサルで、佐野さんが「もうちょっと落ち着いて読んだら」って言われたんですよ。僕多分、めっちゃ取りに行こうとしてたと思うんですよね、その時。飯干さんも緊張してたって言ってたけど、多分なんやかんや自分の好きな読みをやろうっていうところにだけ着手してた。僕は優勝をしようとしてたっていうところに、なんか違うって感じて。その時にもう、あのときのあの人みたいに面白く格好良く読めたら良いなって。技術的なところはちゃんと詰めては来たんですけど、それ以上に本番めっちゃ楽しかったって記憶しかないですね。
路耀)へぇ、そうなんですね。
シラフ)なんか、前の年はロボットみたいでした。「これはこうやればいいんでしょ」みたいな僕の慢心もあったし、僕の中の「良い」って思ってるファイルにまだ飯干さんが追加されてないんで。
路耀)なるほど、そうですか。
さらみ)確かに、一回目の聞いた時は、きっちりきっちり読む、そこに型を感じたし、その中に正確にバックビートを刻むような読みをされてるなって感じました。ラッパーさん的なスキルも何か朗読の中に表すとされているのかなっていうのが、身振り手振りにも読み方にも感じられたんですけど。二回目はガラッと変わって、すごくラフなと言うか、正確なんだけどナチュラルに喋るような読みに近づいていて、この一年の違いは何なのってすごい気になっていました。
シラフ)いろんな人の朗読を聞くようになりましたね。やっぱ高校とか大学はコンペを取りに行くって感じだったんで、大会で勝てる読みを研究して勝つみたいなオタク臭さがあったんですけど、楽しめるようになったのかもしれないですね。社会人になってラップを始めたので、正直ラップより今大切なものがないんですよ。その中でようやく僕の中から朗読っていう主軸が一個いい意味で下に降りたんですね。その瞬間にすげぇ肩の力が抜けて、ホビーとして楽しめるものになったんですよね。その一個落ちたことによる「別に朗読の大会で勝てなくてもいいじゃん」っていうのが逆に勝てるマインドにしてくれたのかもしれない。
路耀)いや、だって色々結果が出ていらっしゃるから!
シラフ)そこのさじ加減みたいなものはありますよね。社会人になってからのほうが朗読面白いです。なんかね、Nコンという枠の中にいたんで、(京コンによって)みんな違ってみんな良いってほんとうの意味はこれだって感じでしたね。なんか、己の刃で戦えば良いんだって気持ちになりました。
路耀)なんかつい楽しくなっちゃって、私の感想を入れたいんですけどね、第一回目、私、飯干さんが朗読らいおんスタッフだから応援に行ってるんですよ。でも、さほど取ってくれとか思ってるわけじゃなく、本当に冷やかしに行った気持ちで。でも、やっぱりちょっと身内感っていうか、ステージに立ってる彼を見たら応援しちゃってる自分がいて、だから私はシラフさんと飯干さんのどっちが上手いか区別がつかなかったんです。この二人じゃんって思って。でも私は飯干さんに対して色眼鏡でしか見えないって思ってたから、「そうかこれ優勝シラフさんで飯干さんが落ちたパターンって(発表される)5秒前まで思ってたんですよ。それで飯干さん受賞ってなって嬉しかったんだけど、一方で「シラフさんには何もあげないつもりか佐野さん」って思って。
シラフ)あれ、落ちた理由がめちゃくちゃ明確に一個あるんですよね。
路耀)え、何だったんですか?
シラフ)めちゃくちゃ簡単な理由で、僕ラッパーが故に手がめっちゃ動いちゃってたのが理由です。以上。もう本当にそれだけしか言われなかった。もちろんほかも稚拙な部分があったとは言われましたけど。やっぱ、ラッパーってマジで手が動くんですよ。なんで、今回は両手で原稿持って読むってことだけを自分のルールにしました。
さらみ)そこね!一回目と二回目で明らかに変わってたから、これなんか言われたの!?って思いました。
路耀)言ってくれたの良かったね。
シラフ)いや、もう本当に良かったですね。それ言われなかったら、またラッパーになってたんで。
路耀)それは、朗読だったら朗読の呼吸でやることだから手は動かさないでくださいみたいなことだよね。
シラフ)そうだし、やっぱ耳で聞くものなんで、目に不必要な情報が過分であるということですね。蛇足であると。
路耀)そうなんだ、だからあえて何かの賞を与えないで、もう一回出てきてくださいってことね。あ、また出てきてくださいって言われたんですか?
シラフ)いや、別に何も言われてないですけど。僕は負けて終わるのが嫌いなだけなんで。
路耀)それは良かったですね。だって、もう一回挑戦したからって絶対に(受賞できる)とは限らないじゃないですか。
シラフ)限らないですね。
路耀)それはどういうモチベーションで…取りに行くっていうのも言われてたから、ちょっと欲もありつつ、それを抑え込む何かはきっと、相当苦労されたのでは。
シラフ)本当、シンプルに負けが嫌いなんですよ。負けたまんま終わりたくないんで、僕は。それ一点だったかもしれないですね、勝って終われば最高ってだけで、本当にそれ以外何もなかったですね。
路耀)再挑戦することは自分の中では決まってて
シラフ)そうっすね。でも、もしラップが盛り上がってたらわかんない…今年の3月に僕、急にネット上でバズって忙しくなったので、それが去年起こってたら出れてなかったってことですね。でも応募要項が出た段階でメラメラってしちゃうだろうなと思いながら生きてたんで。まぁ、本当に出たらメラメラしちゃったし。
路耀)やっぱり取る人はそうなんだなぁ。
さらみ)ちなみに次回って(出場されるんですか?)
シラフ)出ないと思います。勝ち逃げで終わりたいっていうのと。朗読で出るシラフという人間を(ラップの)リスナーが見た時にかなり面白いとは思うんですけど、なんか今は曲を作るシーズンだなっていう感じなので、「シラフ朗読するの?」みたいな感じになる、悪いことじゃないんですけど。
●ラップと朗読
▽セルフプロデュース
▽朗読がラップに活きた!
路耀)もっと盛り上がって、そこでギャップ見せる時に朗読をやるってことはあるかもしれないですよね。
シラフ)それは結構考えてて。僕、本名は「中野」っていうんですけど、京都朗読コンテストは普通に「中野」で出ようとしてて。(申込みフォームに)なにかニックネームを書く欄かと思ったら、それがステージネームのとこだったらしくて、僕「シラフ」になっちゃって。
路耀)そうなんですね。
シラフ)ちょうど京都のコンテストがラップ始めて1ヶ月くらいのときだったんですよ。
路・さ)え!?
シラフ)京都朗読コンテストの応募要項を見た時はまだ僕ラッパーじゃなかったんで。6月くらいにラッパーになったんで僕。
さらみ)えっ、NIKKEI RAP LIVE VOICE(=日本経済新聞社主催のラップコンテスト。シラフさんはこの大会の初代王者)が本当に最初の最初ってこと?
シラフ)そうですね、NIKKEIが8月の末に締め切りで、友達が8月下旬に大会のこと教えてくれて
さらみ)えー!1回目の京コンの最中じゃないですか!
シラフ)そうですね、朗読もNIKKEIもあって、どうしようってなった時に、とりあえずNIKKEIの歌詞バーって書いて、すげぇ上手く書けたんで。よしこれだって思って。
路耀)え…?京都朗読コンテストの1週間後とかですか?
シラフ)最初の曲の締切が8月の末だったんで、(NIKKEI RAP LIVE VOICEの)大会自体は12月なんですけど。
路耀)なるほど。
シラフ)歌詞を書くと朗読が、ガっと被って。
さらみ)え、それでだって…優勝しちゃったわけじゃないですか、ラップの方で。
シラフ)はい
さらみ)すご!
路耀)そうか、そういう時期なんですね。だからツイートでラップのことの方が出てきてたから。
シラフ)そうですね、確かに今はもうめっちゃラッパー側で、うん。
路耀)ラップ熱が相当上がってきたときに京都朗読コンテストも…ちょうど過渡期のところだったんですね。だから両方できちゃうってことなんだな。
シラフ)ゆくゆく自分のEP(ミニアルバム)で、僕フィーチャリング誰々って、客演だけを呼んだEPを作ろうと思ってるんですけど、その時の一曲目はシラフfeat.中野でラップと朗読を合わせた曲でスタートさせようと思ってますね。
路耀)なるほど、相当プロデューサー的視点である印象ありますね。
シラフ)そうですね、ラッパーはそういう人間じゃないと勝ち残れない節はあるんで。
路耀)そうなんですか?
シラフ)これはあくまで僕の肌感覚なんですけど、ラッパーってアイドルやポップスのグループと違って、あんまりレーベルに所属してるイメージないんですよ。個人個人がやってる人が多いんで、セルフプロデュースで。
路耀)え、今事務所に所属してるわけではない?
シラフ)じゃないです。
路耀)Youtubeの動画とか拝見したんですけど、あれも自分でプロデュースして作ってるんですか?
シラフ)はい。
さらみ)そう、だって「Optimus」のPV拝見したんですけど、概要欄にPV撮影が大学の先輩って書いてありましたもんね!めっちゃかっこよかった。もう、ヘビロテしてます。
シラフ)ありがとうございます。「Optimus」ね、あんな伸びると思ってなかったっすね。
さらみ)だって、まだアップして2週間くらいですよね。
シラフ)そう、2週間で2万再生くらいですね。
さらみ)すごい!
シラフ)一番数字が取れない映像になるだろうなって思ってたんで、これからの曲もっと伸びんじゃんくらいの気持ちで結構今ウキウキしてますね。
路耀)なるほど。いや、私ね、インタビューさせていただく前にいっぱい聞かせていただいたんだけど、顔が出てる強みでかいなって単純に思ったんですよね。アニメーションもね、素晴らしかったんですけど。(シラフさんのYoutubeチャンネルにアップされている他のPV作品はアニメーション映像)なんか、お人柄っていうか、パワーが顔に出てるから。人物を見ちゃうよね。表情一つとっても、動き一つとっても。これがシラフさんなんだなって。
さらみ)わかる。何度も見たくなっちゃう。
シラフ)確かにヘビーパンチャーなタイプなんで、ラップは。
路耀)だから言葉、歌詞に元々の魅力はあるけど、なんか普通に顔が出てるとさらに強いなって感じしましたよね。
シラフ)うれしいですね。
路耀)そういう意見をプロデュースに取り入れて自分を成長させてくっていうのは結構あるのかなって思うんですけど。
シラフ)そうですね。そういう意味で、自分の読みを客観視するのは難しいんですけど、自分が今どれくらいのところにいるのかみたいなのは、やっぱり傍から見れるのはあるかもしれないっすね。もっと自分のここ足りないんだよなっていうのは、割と明確に分かるんで、何がいいかは難しいんですけど。
さらみ)そこを潰していくことで、高まっていくってことですね。
シラフ)そうですね。
路耀)私もプロデュースしてもらおうかな!
さらみ)ロックさんの何プロデュースしてもらうのよ!
路耀)あ、いや、なんかするにしても一言ご意見もらうとかね、プロデュース力がすごいから、ほんと。ランチご馳走するんで、なんか。
シラフ)はは、それこそ有識者みたいな「ここの活舌がとかサ行の発音が」とかじゃなくて、僕は「こうだったら面白いな~」みたいな超客観の意見が出せるって強みはあると思います。常に素人みたいな目線になれるんで。
路耀)う~ん、なるほど。
シラフ)ちょっと脱線しちゃうんですけど、ラップってなんかイメージ怖くないですか?
さらみ)うん。
路耀)あー、まぁ。
シラフ)いまだに僕も怖いんですけど、なんかでも昔に比べてすごくラップミュージックって世間に今浸透してってるんですよ。なんなんだろうって思ったんですけど、なんか、今の朗読業界と昔のラップ業界ってすげぇ似てるなって。なんか、やってる奴はイケてるけど、聞いてるだけの奴らはファンでしかいられないっていうか、なんかどこか排他的な世界だったんで。もちろん、今だってそんなのは全然あるんですけど、かなりライトになった方なので、どこかで一個風穴があかない限り、朗読業界もずっとこの状態なんだろうなとは思ってますね、僕は。
さらみ)今、ラップなんかすごい面白いことやってますよね。市役所の職員?でラップバトルやるとか…岡山かな?(※正しくは岡山美術館開催の学芸員によるラップバトルトーナメント「G-RAP TOURNAMENT」)
シラフ)なんかそういうのありますね。ラップっていうものがそういうカルチャーとして面白いことにも流用できるぞっていう思考に今なってるのが僕はすごいことだなって思って。いじっていいカルチャーじゃないけど。なんか、朗読はまだいじれないから。
さらみ)ははは
路耀)はー、うんうん。
シラフ)いじったら怒りそうだから、いじれない。
さらみ)あー、そこをね、朗読らいおん結構いじりに来てるとこが…
シラフ)あぁ、そんな節は垣間見えて…
路耀)えー、そうですか?
シラフ)はい。
さらみ)ね。
路耀)そうなんだなー。
シラフ)真面目にやってはいるんだけど、この世界の界隈の間口をかなり広げようとしているのは、すごく。
路耀)そう、だと思うんですよ。やり方もね、手探りですけどね。でも、私自身のやりたいことを貫いてやってる感じなんです。誰かが付いてくるか来ないかわからないけど。
シラフ)うわー、でもそれは僕、めちゃくちゃヒップホップやなって思いますね。
路耀)そうですか!
シラフ)はい、かっこいいというか、周りじゃなくて、まずは自分のやりたいことって。そういうひとがいっぱいになればいいなと思います。なんか、あの人がやってるイベント面白いよね、とか、あの人が試みてることって実はみんなもうちょっと興味あるんじゃないの?みたいなのが増えていくといいですよね。
さらみ)うんうん。
シラフ)僕は、そこまでの意識は正直ないですけど、朗読みたいなものをシラフがやってたっていうことが、なんか僕の肩書にもなってくれたら面白いし。なんか「ラッパーが朗読って何だよ」とか、ラップを聞いてる人が「朗読って何?」ってなってくれる未来が面白そうなんで、今回引き受けさせていただいたっていうのもあります。
路耀)この話はね、みんなに聞いてほしいってめっちゃ思いますね。私も有意義だと思ってやってるわけですよ。なんていうか、みんなのために。自分もめちゃくちゃ興味があって、シラフさんにお話を伺いたいって、佐野さんがあのコンテストで朗読を盛り上げようとしている活動に共感もするし。それこそ、面白そうだなって思ったことに踏み込んでいって、ちょっとお手伝いさせてもらったら、朗読らいおんとしても面白いし、間口が広がったらいいなって思ってる人たちに、シラフさんの言葉が届いたら、少しずつ意識が変わってくるんじゃないかなとかっていうのは思いますよね。
さらみ)そうですね。っていうか、4月のイベントも出てもらいたいよねみたいな話出てたよね!
路耀)出てほしかったけど、受けてもらえなかった可能性高いよね!
シラフ)朗読家兼ラッパーとして呼ぶならいいんですけど。
さらみ)でもそうですよね、だってそれだけいろんなスキルがあって、使わなきゃ勿体ない。朗読できて、詞がめちゃくちゃいい上に、歌ってもいいし、韻も踏めて。NIKKEI(RAP LIVE VOICE)の決勝動画で審査員の方がおっしゃってた「自分の弱さとか苦しい体験をテーマとして入れてるのにかっこよく見せられるスキル、それがラップのかっこよさだよね」っていうのをみて、私全然ラップわかんないのに「うわー!そう!それ!」とか思っちゃって。
シラフ)嬉しいですね。
路耀)普通にかっこいいよね。
シラフ)それこそあの歌詞はそもそもポップに歌えないと思ったんです。重たい歌詞ほど響かせる大会(大会のコンセプト「日ごろ感じている事、社会に訴えたいことなどをラップに」)なら変に技術を使わず真っすぐがいいなって思ったんです。
さらみ)まっすぐ行くべきところをまっすぐっていう思い切りの良さもありつつ、言葉選びがすごく素敵ですよね。あの「Optimus」とかも「最善」といか「最良」って意味じゃないですか。
シラフ)そうですね。
さらみ)「最強」とかじゃなくて、「最良」って人と比べるものじゃなくて、自分の中での良し悪しの価値観が基準で。なんだろう、常に何か良い人柄がベースにあるんですよね、シラフさんの詩って。優しさとか、寄り添うとか、その中に自分っていうものがしっかりあって。敢えてそこに優劣をつけない、自分も大変だしみんなもそれぞれ大変だよねってところがあって。「POP LIFE」とかそうだけど。でも、EPの中でちょっと挑発的な曲もあるんですよね。
シラフ)ありますあります。
さらみ)そういうのも、ディスの中に理路整然としたものがあって。「頭の出来が違うを口実に学びから逃げるお前と できなかったけど学んだ俺とは確かに出来が違う」(EP「4laugh」Overture)って歌詞があって。そういうところに、何か…こういう言い方が適切かはわからないけど、知的というか、品性・品格を感じるんですよね。
シラフ)嬉しいです。それこそ事前に頂いた質問で、ラップと朗読って共通点があるのかっていうのが、今回のこのインタビューの一番面白い趣旨で、僕にしか聞けないことだと思うんですけど、言語表現って何かしらどっか共通点はあるんですよね。「絵画と朗読って関係ありますか?」って言われたらそれこそ何に関係があるんだろうって俺も聞いちゃうけど、朗読は親密だと思います。
路耀)うんうん。
シラフ)朗読で一番大事なことって、情景が浮かぶことじゃないですか。自分の頭の中のジオラマを作る瞬間が僕はたまらなく好きで、例えばビルだったら、灰色のビルなのか朝だったらちょっと青く見えるのかなとか、そういうことを巡らせる瞬間が好きなんですね。でも、皆に見えてるビルの色と僕の見えてる色って違うかもしれないし。いい読みであればあるほど、そこの差異がどんどんなくなっていくんですよ。僕、朗読家が本当にすごいなって思うのは、線画描く人と色塗る人が別みたいな状況なんですよね。本って、みんな声には出さないけど脳内で朗読してるわけです。頭の中に声を宿らせて本という線画に色を塗ってる。その色塗りを代わりにしますよって言ってるのが朗読家で。その色彩の表現が優れているほど、皆に伝わりやすい。ほんとすごいと思う、自分で書いてないのに良くくみ取って読めてるよねって。僕は作詞も作曲もするし自分でラップもするけど、自分で書いて自分で読むってやっぱり最強なんですよ。自分の脳内そのままなんで。僕が作詞をするときは、必ず小説としても読める文章にしてます。ラップって音が流れてしまえばもう全部リズムなんで聞けちゃうけど、あとで見返したときに歌詞が面白くなきゃいけないんで。歌詞書く時には(ラップとして声に出したとき)朗読みたいに情景が浮かぶかどうかを意識してます。僕は朗読やってるからこそ、解像度が高いものをみんなに提供できるっていうのがあって。そこ、朗読やっててよかったなって思うことです。自分の見せたい情景があって、ストーリーや時系列があって、カメラワークがあって、(朗読やってたから)そういう歌詞が書けるんですよ僕は。
さらみ)シラフさんの歌詞って、一貫したストーリーがありますもんね。
路耀)なんかすごい。
シラフ)あともう一個、ライブするときも朗読めっちゃ生きてます。感情の入れ具合とかがやっぱり、しっかり出てくるんで。ほかのラッパーからも「よくライブでそんな感情入れられるな」って言われますね。それはマジで朗読やってたからだと思って、全員にそう言ってます。ステージングめっちゃ上手くなる。
路耀)これはあれだな、ラッパーに読んでほしい記事になるんじゃないですか?
シラフ)確かに、頭の中で一回世界を作るのがどれだけ大切かってことの示しだと思いますね、朗読は。
さらみ)その世界が確固としてあるから、その場でパッとその演技ができるんだ。単純にリズムとか曲ってだけじゃなくて、その言葉一つ一つに込められてる感情がパッパッと切り替わって出てくるのが、シラフさんのかっこよさで持ち味だなって思いました。そうだ、これちょっと私の聞きたかったところなんですけど、
シラフ)はいはい。
●テキストについて
▽「青空文庫 短い」で調べました
▽BGMは自分で作っちゃいました
さらみ)一回目と二回目のコンテストで、姿勢はもちろんですが、選書によっても表現がずいぶん変わったんじゃないかなって感じていて、一回目と二回目の選書で、これにしようって思った決め手を教えていただきたいのですが。(※第一回大会での朗読作品は『銀河鉄道の夜(抜粋)』第二回大会での朗読作品は『殺人の涯て』)
シラフ)(二回目のとき)実は飯干さんに相談したんですよ。飯干さんが勧めてくれた物の中からは結局選んでないんですけど。その時に飯干さんが「結局自分が読みたいって思うものを読むのが一番だよ」って言われて。
路耀)結構それ言われる方いらっしゃいますね。結局作品を自分が好きで読んで「面白いでしょ」って言いたいところからスタートしてるところが表現の始まりって言ってて。
シラフ)ただ、僕、本を読むという行為がすごく苦手なんです。だから基本的に1年に読む本って1冊か2冊で。それを、繰り返し何回も読むんです。1回目は普通に読者として、2回目は事実を知った上で読み返して、3回目は特定の登場人物の視点になって…っていうのをずっと続けてるんです。そうやって、この世界全部分かり終わったなってならないと、僕次の作品にすすめないんですよ。
さらみ)面白い!読めば読むほど作品の解像度高まっていくんじゃないですか?
シラフ)本当そうです。どんどんピクセル数上げてって、最後には僕の中で不足なくジオラマが完成しないと次にいけないんですよ。
さらみ)それはすごい!
シラフ)てなると、作品選びなんてできなくて。すごい恥ずかしい話なんですけど、僕直前に「青空文庫 短い」で調べたんですよ。その中で惹かれたタイトルのものを読みました。それが『殺人の涯て』でした。実際タイトル通りの面白さがあったし、何より去年の僕になかった”感情の放出”がすごくできそうだったんです。
さらみ)『殺人の涯て』面白いですよね。
路耀)面白かったです。コンクール映像だとか優勝者だとか上手いかとかいう意識を忘れて、普通に面白いと思いながら見ちゃいました。
シラフ)それにBGM決めなきゃいけないんですよ。でも殺人の涯てみたいなBGMがなくて、自分で作っちゃいました。僕が作ったら著作権はフリーに決まってるんで。
さらみ)あのBGMめっちゃ合ってるー!って思ったけど、オリジナルなんですね。
シラフ)ちょっと気味の悪い作品なんで、最初っから嫌な雰囲気を出しつつ、最後夢落ちみたいな拍子抜けで終わるんで、世にも奇妙な物語的なバランスで。
路耀)だから、エンターテイメントとして完成したステージになってましたよね。うん、だから面白いんですね。
シラフ)なんか、自分が作ったもの聞くと安心するんですよね。背中を押されてる気がするんで、自分に。
路耀)スイッチ入るだろうなー。
シラフ)入りますね。
さらみ)ちなみに、第一回目の『銀河鉄道の夜』はどういう経緯で選ばれたんですか?
シラフ)あれは単純に「知ってた」って理由があるんで、ある程度の解像度で頭の中にあるから、読み込めばさらに行けるだろうと思って。実際読み始めたらめちゃくちゃ長かったんですけど。あと、夜みたいな作品が自分の声質的に合うんです。昔から友達から「話してると眠くなる」って言われるんで。夜っぽい作品で、なんか素敵だったんでっていうジャケ買いみたいな選び方ですね。良くも悪くも中身はあんまりないです。
さらみ)ありがとうございます。最後に、ちょっと京都朗読コンテストに絡めてなんですけど、
路耀)急に真面目じゃん。
さらみ)京都朗読コンテスト応援企画だから!単純に私たちが楽しくおしゃべりしちゃってるけれども!京都朗読コンテストのどんなところに魅力を感じて応募されましたか?
シラフ)そうですね、朗読の大会が新たに始まるってこと自体にかなりワクワクしたっていうのと、あと、「アンダー35」って目を引きますよね!「今しか出られない」みたいな気持ちにさせてくれる。35歳までに出なかったら、優勝せずに終わったら、悔やみそうな気がしたんで。
さらみ)いいですよね、私漏れちゃったからな~!あー!出られないじゃん!みたいになりました。
シラフ)そう、僕は「出れちゃうじゃん!」ってなって。そういう意味であの数字をバーンって前面に出したロゴ、本当に目を引きました。
路耀)いやー、楽しかった。もっとね、おしゃべりしたいですね。ご飯行きたい。
シラフ)あ、ご連絡いただければスケジュール調整します。
さらみ)私も呼んで!栃木から行くから!
路耀)普通にファンだよね。本当にありがとうございました。
シラフ)ありがとうございました。
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