「みんな! 楽しんでるかい!」――ロックコンサートの呼びかけの決まり文句です。ネット時代になってから朗読を公開する人が増えました。以前の発表は身近なグループに加わってときどき発表会を開くという活動でした。しかし、今ではネットを通じてかんたんに発表できます。スマホがあればすぐに録音して公開できるし、ライブ配信も簡単です。
ネットで朗読を公開する人たちは、それなりに楽しんでいると思います。しかし、楽しみというものには際限がありません。同じことを繰り返していたら飽きてしまって永続きしません。どうしたら飽きずに長く楽しみ続けられるのでしょうか。
朗読というと、だれかのために読むものだとか、人に聞いてもらうために読むのだと言われます。しかし、わたしはもっぱら自分の楽しみを第一に考えてきました。自分が楽しく読んでいなければ、聞いた人も楽しめないと思うからです。長い間、文学作品を声に出して読むという活動を続けてきました。それだけ長く続いたのは、読むたびごとに疑問が湧いて、次つぎに工夫を重ねてきたからです。
わたしは朗読の目標として「ジャレる猫になれ!」ということを人にいいます。ジャレる猫は見ている人間を楽しませようとは思っていません。ひたすら自分の眼の前にあるものに集中して、それと戯れるために真剣にジャレるのです。
さて、今回は、朗読を学びながら楽しめる3つの方法についてお話ししましょう。どれもスポーツの訓練のようなことです。真剣にやればやるほど楽しくなるという方法です。
(1)新しい発声法――
発声法は2種類あります。(1)緊張発声と(2)解放発声です。一般には解放発声の訓練だけが行われています。楽しいのは緊張発声です。いい運動になります。緊張と解放との交替から充実感があります。緊張発声は、アクセントの発声によって訓練できます。
(2)リズムある発音練習――
発音とアクセントとは一体のものです。一音一音の発声練習ではアクセントがつきません。発音練習は2音ないし3音単位の組合せです。ことばは常に2音ないし3音に区切られます。そして、アクセントは6通りになります(アクセントの位置を片仮名で示します)。2音ならば(1)いカ(烏賊)、(2)タこ(蛸)、(3)すキ(好き)、3音ならば(4)たカい(高い)、(5)タまち(田町)、(6)うえノ(上野)です。(1)から(3)、(4)から(6)の連続練習、さらにいろいろ組合せて練習できます。「イカイカ」「イカタコ」「タコイカ」、「イカタコたかい」という発音はまるでことば遊びです。それが、文の読み方に応用できます。
「何でも大きな船に乗っている」は「なん/でも//おお/きな/ふねに/のって/いる」「タコイカタコイカ/たまち/うえの/イカ(2/2//2/2/3/3/2)」
2音ないし3音区切りのよみは発声・発音の同時訓練になります。
(3)文の意味を理解する――
文学作品を読んで意味が分かるのは楽しいことです。作品の理解は文の意味の理解から始まります。①文の主部・述部のつながり、②修飾・被修飾との関係、つまりフレーズの係り受けが声で表現できたときに意味の理解という楽しみが生まれます。たとえば、「(私は)何でも大きな船に乗っている」では、主部・述部は「私は→乗っている」、修飾・被修飾は「大きな→船」、「何でも(何だかわからないが)→乗っている」それぞれの係り受けはアクセントの強弱で表現されます。
以上、本当に初歩の初歩ですが、朗読を楽しむための基本として、毎日のように繰り返すべき訓練です。自分が楽しむための工夫から自分の楽しみが生まれます。そして、そんなあなたの読みを聞いている人たちにも共鳴による楽しみが生まれるのです。
以上
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【著者プロフィール】
わたなべ・ともあき=「話し・聞き、読み・書き」に関するコトバ理論の実践的研究家。群馬県桐生市出身。日本コトバの会講師、コトバ表現研究所所長。
主著▼2019『読書の教科書』▼2017『声を鍛える』▼2015『文章添削の教科書』▼2012『朗読の教科書』▼1995『表現よみとは何か』。
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渡辺知明さん著書『朗読の教科書』
朗読の基礎から実践的な表現技法までを一冊に凝縮。初心者から経験者まで、指導者にも役立つ教科書です。
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